糖尿病の検査値の読み方——HbA1c以外に見るべき数値
糖尿病の定期検査では、HbA1c以外にもさまざまな数値が測定される。検査結果の紙を渡されても、「基準値の範囲内かどうか」だけ見て、何を意味しているのかよく分からないまま帰ってくる人も多いのではないだろうか。
この記事では、糖尿病患者が知っておくべき主な検査項目について、何を見ているのか、基準値はいくつか、高い・低いとどういう意味があるのかを解説する。自分の体の状態を理解することは、治療へのモチベーションにもつながる。
血糖値に関する検査
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)
糖尿病管理の最も重要な指標。過去1〜2ヶ月の血糖値の平均を反映する。赤血球の中のヘモグロビンにどれくらい糖がくっついているかを測定している。
基準値:
- 正常:5.5%以下
- 糖尿病予備群:5.6〜6.4%
- 糖尿病の疑い:6.5%以上
糖尿病患者の目標値:
- 一般的な目標:7.0%未満
- 合併症予防のための理想:6.5%未満
- 高齢者や低血糖リスクが高い人:7.5〜8.0%未満でも可
HbA1cが1%下がると、合併症のリスクが20〜30%下がるとされている。毎回の検査で一喜一憂するより、3〜6ヶ月の傾向を見ることが大事だ。
空腹時血糖値
8時間以上食事を摂らない状態で測定した血糖値。朝食前に測ることが多い。肝臓からの糖の放出(糖新生)と、基礎的なインスリン分泌のバランスを反映する。
基準値:
- 正常:99mg/dL以下
- 糖尿病予備群:100〜125mg/dL
- 糖尿病の疑い:126mg/dL以上
糖尿病患者の目標値:130mg/dL未満が一般的な目標。
空腹時血糖値が高い場合、夜間〜早朝の血糖コントロールに問題がある可能性がある。夕食の量や時間、就寝前の間食、薬の効き具合などを見直す必要があるかもしれない。
食後血糖値(随時血糖値)
食事を摂った後の血糖値。通常は食後2時間の値を見ることが多い。食事からの糖質吸収と、それに対するインスリン分泌・作用を反映する。
糖尿病患者の目標値:食後2時間で180mg/dL未満が一般的な目標。
食後血糖値が高い人は、食事内容(糖質の量)、食べる順番、食後の運動などを見直すと改善することがある。
グリコアルブミン(GA)
過去2〜3週間の血糖値の平均を反映する。HbA1cより短期間の変動を見ることができる。貧血や腎臓病でHbA1cが正確に測れない場合にも使われる。
基準値:11〜16%
糖尿病患者の目標値:20%未満が目安。HbA1c×3≒GAという関係がある(例:HbA1c 7%ならGA 21%程度)。
1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール)
過去数日〜1週間の食後高血糖を反映する。血糖値が高いと尿に糖が出て、1,5-AGも一緒に排泄されるため、値が下がる。つまり、低いほど食後高血糖があったということ。
基準値:14μg/mL以上
HbA1cは良いのに1,5-AGが低い場合、食後の血糖値スパイクが起きている可能性がある。SGLT2阻害薬を使っている人は、尿糖が増えるため値が低く出る(参考にならない)。
腎臓に関する検査
糖尿病は腎臓を傷つける(糖尿病性腎症)。定期的に腎機能をチェックすることが大切だ。
クレアチニン(Cr)
筋肉で作られる老廃物で、腎臓から排泄される。腎機能が低下すると血中に溜まり、値が上がる。
基準値:
- 男性:0.65〜1.07mg/dL
- 女性:0.46〜0.79mg/dL
ただし、クレアチニン単独では腎機能を正確に評価できない。筋肉量が多い人は高めに、少ない人(高齢者、痩せている人)は低めに出るからだ。
eGFR(推算糸球体濾過量)
クレアチニン、年齢、性別から計算される腎機能の指標。腎臓が1分間にどれくらい血液を濾過できるかを示す。これが最も重要な腎機能の指標だ。
基準値:90mL/分/1.73m²以上
腎機能のステージ:
- G1(正常):90以上
- G2(軽度低下):60〜89
- G3a(軽度〜中等度低下):45〜59
- G3b(中等度〜高度低下):30〜44
- G4(高度低下):15〜29
- G5(末期腎不全):15未満
eGFRが60未満になると慢性腎臓病(CKD)と診断される。30未満になると使えない薬が出てくる(メトホルミンなど)。15未満になると透析の準備が必要になることがある。
尿アルブミン(尿中微量アルブミン)
尿に漏れ出るアルブミン(タンパク質の一種)の量。腎臓の糸球体が傷つくと、本来は漏れないはずのアルブミンが尿に出てくる。糖尿病性腎症の早期発見に重要。
基準値:30mg/gCr未満(尿アルブミン/クレアチニン比で表すことが多い)
腎症のステージ:
- 正常:30未満
- 微量アルブミン尿(早期腎症):30〜299
- 顕性アルブミン尿(顕性腎症):300以上
微量アルブミン尿の段階で発見し、血糖・血圧を厳格にコントロールすれば、進行を遅らせたり、正常に戻せたりすることもある。年に1回は検査を。
尿蛋白
尿に含まれるタンパク質全体を見る検査。尿アルブミンより大雑把だが、健康診断などでよく使われる。
基準値:陰性(−)
+以上が出たら、より詳しい検査(尿アルブミンなど)が必要。ただし、激しい運動後や発熱時は一時的に陽性になることもある。
脂質に関する検査
糖尿病患者は脂質異常症を合併しやすく、動脈硬化のリスクが高い。脂質の管理も重要だ。
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)
血管壁に溜まり、動脈硬化を進める「悪玉」。糖尿病患者は特に厳格な管理が必要。
一般的な基準値:140mg/dL未満
糖尿病患者の目標値:
- 一般:120mg/dL未満
- 心筋梗塞や脳卒中の既往がある場合:100mg/dL未満(さらに厳格に70未満を目指すことも)
HDLコレステロール(善玉コレステロール)
血管壁からコレステロールを回収して肝臓に運ぶ「善玉」。高い方が良い。
基準値:40mg/dL以上
運動、禁煙、適度な飲酒でHDLは上がる。低いと動脈硬化のリスクが高まる。
中性脂肪(トリグリセリド・TG)
食事から摂った脂肪や、肝臓で作られた脂肪。高いと動脈硬化のリスクが上がり、膵炎のリスクも高まる。
基準値:150mg/dL未満(空腹時)
食後は上がるので、空腹時に測定するのが基本。アルコール、糖質の摂りすぎ、運動不足で上がりやすい。500mg/dL以上は膵炎のリスクがあり、要注意。
Non-HDLコレステロール
総コレステロールからHDLを引いた値。LDL以外の「悪玉」も含めた動脈硬化リスクの指標。中性脂肪が高い人ではLDLより正確にリスクを反映する。
目標値:LDL目標値+30mg/dL(例:LDL目標が120なら、Non-HDL目標は150)
肝臓に関する検査
糖尿病患者は脂肪肝になりやすい。また、薬の副作用で肝機能が悪化することもある。
AST(GOT)、ALT(GPT)
肝臓の細胞が壊れると血中に出てくる酵素。肝臓のダメージを反映する。
基準値:30U/L以下(または35以下など、施設により若干異なる)
ALT>ASTの場合は脂肪肝を疑う。両方とも100を超える場合は肝炎などの可能性。薬の影響で上がることもあるので、定期的にチェックが必要。
γ-GTP
肝臓や胆道の障害で上がる酵素。特にアルコールの影響を受けやすい。
基準値:
- 男性:50U/L以下
- 女性:30U/L以下
お酒を飲む人は高くなりやすい。禁酒すると数週間で下がることが多い。
その他の検査
血圧
厳密には「検査」ではなく「測定」だが、糖尿病患者には非常に重要。高血圧は動脈硬化を進め、腎症や網膜症を悪化させる。
糖尿病患者の目標:130/80mmHg未満(家庭血圧では125/75mmHg未満)
尿酸
プリン体の代謝産物。高いと痛風のリスクがあり、腎機能にも影響する。
基準値:7.0mg/dL以下
SGLT2阻害薬を使うと尿酸値が下がることがある。
体重・BMI
肥満は糖尿病を悪化させる。BMI(体重kg÷身長m÷身長m)で評価。
目標:BMI 25未満。すでに肥満の場合は、現体重から3〜5%減を目指す。
検査結果の見方のコツ
基準値を外れても慌てない
1回の検査で基準値を少し外れても、すぐに問題とは限らない。体調や食事、測定タイミングで変動する項目も多い。傾向を見ることが大事。3回連続で基準値を外れていたら、主治医に相談しよう。
「前回と比べてどうか」を見る
絶対値だけでなく、前回・前々回と比べて上がっているか下がっているかを見る。徐々に悪化しているなら、早めに対策を取る必要がある。
分からないことは質問する
検査結果で気になることがあれば、遠慮せず主治医や看護師に質問しよう。「この数値が高いのは何が原因ですか?」「どうすれば改善できますか?」と聞けば、具体的なアドバイスがもらえる。
まとめ
糖尿病の検査はHbA1cだけではない。腎臓、脂質、肝臓など、全身の状態をチェックしている。
特に重要な検査項目:
- HbA1c:目標7%未満
- eGFR:腎機能。60未満は要注意
- 尿アルブミン:30未満が正常。早期腎症の発見に重要
- LDLコレステロール:糖尿病患者は120未満を目標
- 血圧:130/80未満
検査結果を理解することで、自分の体の状態が分かり、治療への意識も高まる。次の検査結果をもらったら、この記事を参考に、自分の数値を確認してみよう。