糖尿病と診断されたばかりの人へ——最初の3ヶ月で知っておきたいこと
「糖尿病です」と言われた日のことは、たぶん忘れない。健康診断の結果を見て、頭が真っ白になった人もいるだろう。医者の説明が右から左に抜けていって、家に帰ってからスマホで検索しまくった人もいるはずだ。
検索すると怖いことばかり出てくる。失明、透析、足の切断。そんな単語が目に入って、さらに不安になる。でも、落ち着いてほしい。糖尿病と診断されたからといって、明日すぐにそうなるわけじゃない。この記事では、診断されて最初の3ヶ月で何をすればいいのか、逆に何をしなくていいのか、具体的に整理して伝える。
最初の1週間——情報を集めすぎない
診断直後にやりがちなのが、ネットで調べすぎることだ。検索すればするほど不安になるし、矛盾した情報に振り回される。糖質制限がいいと書いてあるサイトもあれば、カロリー制限が基本と書いてあるサイトもある。どっちが正しいのか分からなくなる。
正直に言うと、どちらも正解になりうるし、どちらも間違いになりうる。人によって合う方法が違うからだ。だから最初の1週間は、主治医から言われたことだけをやればいい。たいていは「次の診察までに、食事の量を少し減らしてみましょう」「甘い飲み物は控えましょう」くらいの指示しか出ない。それで十分だ。いきなり完璧な食事療法を始める必要はない。
この時期に一番大事なのは、パニックにならないこと。糖尿病は慢性疾患で、短距離走じゃなくマラソンだ。最初から全力で走ると、すぐにバテる。
最初の1ヶ月——生活を「少しだけ」変える
1ヶ月かけて、生活を少しずつ変えていく。一気に変えようとすると続かない。「よし、今日から運動して、糖質制限して、禁酒して、早寝早起きだ」と決めても、1週間でどれか1つ崩れ、2週間で全部崩れる。それより、1つだけ変えて、それを習慣にしてから次に進む方がうまくいく。
食事で変えること
まず取り組みやすいのは「量を減らす」ことだ。白米の量を今の8割にする。おかわりをやめる。菓子パンを週3から週1にする。ジュースをお茶に変える。これくらいから始めるのが現実的だ。
「何を食べるか」より「どれくらい食べるか」の方が最初は重要だ。完璧な糖質制限食をいきなり始めると、1週間で挫折することが多い。それよりも、今食べているものを少し減らすだけで血糖値は変わり始める。
具体的な目安として、1食の糖質量を40〜60gに抑えるのが一般的な目標だ。ご飯茶碗1杯(150g)で糖質約55g。これを100gに減らすだけで糖質は約37gになる。毎食これをやれば、1日で50g以上糖質を減らせる。
運動で始めること
食後に15分歩く。これだけでいい。ジムに入会する必要はない。ランニングシューズを買う必要もない。今ある靴で、食後に近所を1周する。それを週に3〜4回。これだけで血糖値は確実に変わる。
なぜ「食後」かというと、食後30分〜1時間が血糖値のピークだからだ。このタイミングで歩くと、筋肉がブドウ糖を消費して、血糖値の上がり方がゆるやかになる。科学的にも証明されている方法で、特別な器具も技術もいらない。
歩くのが難しければ、食後に立って皿を洗う、掃除機をかける、といった家事でもいい。座りっぱなしで食後の血糖値ピークを迎えるのが一番良くない。
測定の習慣をつける
血糖自己測定器を持っているなら、食前と食後2時間の血糖値を測ってみる。何を食べたら上がりやすいのか、自分のパターンが見えてくる。「ラーメンを食べた日は200を超えた」「定食の日は150くらいだった」というデータが積み重なると、自然と食事選びが変わってくる。
測定器がなくても大丈夫だ。次の診察でHbA1cを測れば、過去1〜2ヶ月の血糖値の平均が分かる。3ヶ月後にHbA1cが下がっていれば、やっていることが正しいという証拠になる。
薬を処方された場合
診断時にすでにHbA1cが高い場合(7.5%以上など)、最初から薬を出されることがある。「薬に頼るのは負けだ」「一度飲んだら一生飲み続けるのか」と抵抗を感じる人もいるだろう。でも、薬を使うことは負けではない。
血糖値が高い状態が続くと、膵臓のβ細胞(インスリンを出す細胞)が疲弊していく。早めに薬で血糖値を下げることで、膵臓を休ませることができる。その間に食事と運動の習慣を作れば、将来的に薬を減らせる可能性もある。
処方された薬が何なのか、どういう仕組みで効くのか、副作用は何か、主治医にしっかり聞いておこう。「聞いても分からない」と思うかもしれないが、自分の体に入れるものだから、最低限の理解はしておいた方がいい。
最初の3ヶ月——数字で成果が見えてくる
3ヶ月続けると、HbA1cに変化が出る。HbA1cは過去1〜2ヶ月の血糖値の平均を反映する数字だから、3ヶ月目の診察で初めて「自分の努力が数字になった」という実感が持てる。
最初のHbA1cが7%台だった人なら、0.5〜1%くらい下がっていることが多い。8%台、9%台だった人はもっと大きく下がることもある。逆に、あまり変わらなかった場合は、主治医と相談して方法を見直せばいい。
ここで大事なのは、結果が良くても悪くても、自分を責めないことだ。下がっていたら「よくやった」と思えばいい。あまり下がっていなかったら「まだ伸びしろがある」と思えばいい。自分を責めてストレスを溜めると、そのストレスで血糖値が上がる。本当だ。ストレスホルモン(コルチゾール)は血糖値を上げる作用がある。
やらなくていいこと
高額なサプリを買わなくていい
「血糖値を下げる」とうたうサプリや健康食品が山ほど売られている。難消化性デキストリン、イヌリン、桑の葉、ギムネマ、バナバ茶……。ほとんどは効果が科学的に証明されていないか、あっても微々たるものだ。値段も高い。そのお金があるなら、普通の野菜を買った方がいい。キャベツやブロッコリーを食前に食べる方が、よっぽど血糖値の上がり方は穏やかになる。
糖質をゼロにしなくていい
糖質は完全に悪者ではない。脳の主なエネルギー源だし、極端な糖質制限は長続きしない。低血糖のリスクもある。白米を玄米に変える、麺の量を減らす、パンを全粒粉にする、くらいの緩やかな制限で十分効果は出る。
「糖質制限をやりすぎて、反動でドカ食いしてしまった」という話はよく聞く。制限は緩やかに、でも継続的に。これが長く続けるコツだ。
周りに言いふらさなくていい
糖尿病であることを誰に、どこまで伝えるかは自分で決めていい。職場や友人に言う義務はない。言いたくなければ言わなくていい。
ただし、低血糖を起こす可能性がある薬(インスリン注射やSU薬など)を使っている場合は、家族や近しい人には伝えておいた方が安全だ。万が一、低血糖で意識がもうろうとした時に、周りの人が対応できるようにしておく必要がある。
家族との関係
糖尿病と診断されると、家族の対応も変わることがある。「あれ食べちゃダメ」「甘いもの禁止」と監視されるようになる場合もある。善意なのは分かるが、正直うっとうしいと感じることもあるだろう。
一緒に住んでいる家族には、ある程度の理解と協力を求めるのが現実的だ。「白米を少なめによそってほしい」「おかずを多めにしてほしい」といった具体的なお願いは伝えていい。一方で、「監視しないでほしい」「自分のペースでやらせてほしい」ということも伝えていい。
大事なのは、糖尿病の管理は最終的に本人がやるものだということ。家族のサポートは助けになるが、家族に管理を丸投げすると、うまくいかないことが多い。
不安なときの考え方
糖尿病の合併症——目(網膜症)、腎臓(腎症)、神経(神経障害)、心臓血管(動脈硬化)——は、高血糖が何年も続いた結果として起こるものがほとんどだ。診断されてすぐに起こるわけじゃない。今から血糖値をコントロールすれば、合併症のリスクは確実に下げられる。
実際、HbA1cを1%下げると、合併症のリスクは20〜30%下がるというデータがある。これは大きな数字だ。今日から始める小さな努力が、5年後、10年後の体を守っている。
不安になったら、「今日できることを1つやる」に集中する。白米を少し残す。エレベーターでなく階段を使う。ジュースを買わずにお茶を買う。その1つ1つが、未来の自分を作っていく。
主治医とのコミュニケーション
3ヶ月ごとの通院で、主治医と話す時間は短い。5分、10分ということも多い。その限られた時間を有効に使うために、聞きたいことは事前にメモしておこう。
「HbA1cが下がらない原因は何ですか?」「今の薬は続けた方がいいですか?」「食事で特に気をつけることは?」——聞きたいことを3つくらいに絞っておくと、時間内に聞ける。
また、主治医の説明で分からないことがあれば、「すみません、もう一度説明してもらえますか」と言っていい。分かったふりをして帰ってきて、後からネットで調べて不安になるより、その場で聞いた方がいい。
まとめ——焦らなくていい、でも放置しない
糖尿病は一生付き合っていく病気だけど、一生を台無しにする病気ではない。早く見つかったのは、むしろ運がいい。これから血糖値と向き合う時間が長くあるということは、改善するチャンスも長くあるということだ。
最初の3ヶ月は、無理をしない。完璧を目指さない。でも、何もしないのはダメだ。毎日1つだけ、血糖値のためになることをやる。それを3ヶ月続けたら、数字が変わっている。数字が変わると、少し自信がつく。その自信が、次の3ヶ月を続ける力になる。
この記事を読んでいるということは、すでに「何かしよう」と思っているということだ。その気持ちがあれば、大丈夫だ。一歩ずつ、自分のペースで進んでいこう。
